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アフターコロナの消費者行動の変化を読み解くニューロマーケティング
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アフターコロナの消費者行動の変化を読み解くニューロマーケティング
アフターコロナの消費者行動の変化を読み解くニューロマーケティング
「何かを感じて、買う」。マーケターは、消費者の感情を動かす要素と購買への意思決定のつながりについて何年も前から認識しており、それらを上手く活用することでより効果的なマーケティング(言葉を換えれば、消費者にモノを買うように誘導)を行ってきました。従来の経済理論では、消費者は価格や利便性などの要素をもとに商品を買うか買わないかという判断を合理的に行うという考えを前提としています。しかし、近年の様々なニューロマーケティングの研究によって、消費者の購買の意思決定は私たち信じていたよりもっと非合理的であり、さらにより感情的な要因が大きいということが明らかになりました。
購買の意思決定の95%が無意識で行われている
ハーバード大学の教授であるGerald Zaltman氏は、自身の顧客心理についての著書である“How Customer Think: essential Insights into the Mind of the Market”の中で「顧客の購買意思決定の95%が無意識的である」と述べています。そして、効果的なマーケティングは顧客と深い心理的なコネクションを築くために、無意識的な意思決定に上手く訴えかけるものになっています。
このような消費者の無意識に訴えるマーケティングの例は、すべてのマーケティングチャネルにおいて存在します。高級ブランドは、高級感の演出によって顧客の自尊心に訴求しています。また、通信会社は人間の他者と社会的につながる欲求に触れることで携帯料金プランを販売したり、保険会社はしばしば感情的な広告を行うことで、保険の必要性を訴えたりします。
しかし、パンデミックの到来が人々の日常生活を一変させ、さらに根本的な消費者行動に大きな影響をを与えました。企業やブランドにとって、パンデミックによる消費者行動の変化をいち早く察知することが非常に重要です。そのための手段として、ニューロマーケティングがあります。
ニューロマーケティングという言葉は2011年ごろから存在していましたが、最近ではパンデミックの影響でその重要性が高まっています。特にニューロマーケティングは以下の3つの点を理解するために、必要不可欠なツールになります。
- なぜCOVID-19のパンデミックによって消費者行動が変化したのか
- アフターコロナ時代の消費行動にはどのような特徴があるか
- 企業やブランドはアフターコロナ時代の新しい顧客にどのようなマーケティングを行うことができるか
ニューロマーケティングとアフターコロナ時代の消費者行動
名前の通り、ニューロマーケティングは「ニューロサイエンス(脳科学)」と「マーケティング」を合わさったものです。広告業界の新しい分野で、消費者がマーケティングにどう反応するかを神経認知の観点から理解することを目的としています。また、ニューロマーケティングは社会心理学と行動経済学の識見を取り入れた複数の分野にまたがる学問でもあり、その研究方法は進化し続けています。一般的なニューロマーケティングの研究では、被験者に色や文章、音などの様々な刺激要因に触れさせ、EEGやMEG、fMRIなどの技術によって目の動きや反応速度、心拍数などの生体測定からその効果を測ります。
ニューロマーケティングは一見ただの表面的な科学だと感じるかもしれませんが、実際には顧客に好まれるロゴの色はどれかや広告でどのようなキャッチフレーズを使えば良いかよりも、もっと深い洞察や具体的に役立つヒントが得られます。
人間の行動を深く掘り下げ、なぜその要因がほかの要因よりも消費者の購買意欲を高めるのかを明らかにします。例えば、アメリカのマサチューセッツ工科大学のニューロマーケティングの研究によると、クレジットカードでの支払いは脳内報酬系(主に喜びや幸福感を司る神経回路グループ)を活発化させ、ドーパミンを放出させることで、結果的に顧客にもっと買い物したいという欲求が生まれるといいます。
パンデミックによって消費者心理はどう変化したのか
スーパーでの商品の品不足、日用品の買い占めや自炊する人の増加などは、パンデミックによる消費者行動の変化のうちの少数の例に過ぎません。一時的な傾向として見過ごすのは簡単ですが、ニューロマーケティングの専門家によれば、その内のいくつかは単なる傾向ではなく、市場を基盤となる消費者の心理学的な変化と関連していると言います。
例えば、2020年6月と12月にオーストラリアのアデレード大学によって行われた研究では、アフターコロナ時代の消費者行動には主に以下のような特徴がみられるとしました。
- リスクに対する抵抗
全体の24%が、トイレットペーパーなどの生活必需品が無くなることへの不安から買い占めなどの行動に至ってしまったと回答しました。この傾向は小さい子供がいる親の間で強くみられ、パンデミックが人々のリスクを回避しようとする傾向が強まり、より前もって計画するようになったといいます。
- 原産国への関心
46%の消費者がパンデミック以降、安全面の観点から購入する商品の原産国や生産地などを気にするようになったことが分かりました。その結果、オーストラリア産(この研究では”国産”)の商品がより多く売れるようになりました。また、アメリカのInstitute of Operations Research and Management Sciencesが「新型コロナの流行によって、アメリカ産と記載されている商品への需要が高まっており、オンラインオークションサイトでの価格がつりあがった」という同様の調査結果を発表しています。
- 健康とウェルネスの意識
オーストラリアでは、人々が家で自炊する率が45%、野菜やフルーツの消費量が33%増加しました。また、植物性プロテイン食品の売上が60%増加しました。
- 持続可能性-サステイナビリティ
人々の中で、スーパーマーケットに行く頻度が減りました。さらに、食品や日用品を買いに行く際は、よりサステイナビリティを意識した商品を購入する傾向が見られました。
このような4つの特徴に加えて、Frontiers in Psychologyという雑誌に掲載された調査は、企業やブランドなどの組織と顧客との間の心理的なコネクションを形成するためのツールとしてのニューロマーケティングの有効性を主張しています。アフターコロナの新しい消費者行動に合わせるために、ニューロマーケティングの視点を応用するブランドが増えている一方で、従来と同じ施策をやり続けるだけでのマーケティングを行っているブランドも少なくありません。そうしたマーケティングは、変化する消費者行動に対応できず、有効性を失っている可能性が高いです。
パンデミックがもたらした消費者の購買行動の変化のいくつかは、いずれ日常生活の「普通」として定着していきます。そのために、ニューロマーケティングという観点から、消費者行動に注目していく必要があります。
☞消費者行動に関する記事はこちら
参考:ZME Science “How neuromarketing helps us understand post-pandemic changes in consumer behavior” / Alexander Gerea
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