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ディズニーの値上げ・有料ファストパスとディズニーの変革

ディズニーの値上げ・有料ファストパスとディズニーの変革

投稿日:2024年6月21日/更新日:2024年6月21日

 

ディズニーランド新エリア・高級ホテル開業の発表と共に高額化していくチケット、初見殺しのオンラインシステムが今大きな話題となっている。新たなオンラインシステム導入により、ディズニーリゾートでの一日を満喫するためには今や入念な事前準備は欠かすことができず、子供連れのパパ・ママは熱烈なディズニーファンとデジタルネイティブを相手取りチケット争奪戦に参加することを強いられている。ファストパス有料化など様々な変革が起きているディズニーで、オリエンタルランド(以下OLC)はどこを目指しているのであろうか?

この記事では以下の3つの疑問に沿いつつ、多くの議論と批判が飛び交っているディズニーの現状と新施策によりもたらされるメリットを紹介していき、ディズニーの将来の姿を考察していく。

 

1:チケット高額化・ファストパス有料化により生まれるより効果

2:テーマパークは誰のためなのだろうか? NEWターゲティング

3:ディズニーリゾートは今後どのような方向性で進んでいくのだろうか?

 

ーチケット値段上昇・ファストパス有料化

まず初めに、ディズニーリゾートのチケットの値段とプレミアアクセスについて軽く触れていく。

1983年には3,900円であったが、2023年10月には最高額10,900にまで値上げされた。現在、チケットの値段は価格変動性が導入されていて、日により6段階に値段が分かれている(下記図参照)。加えて、ディズニー・プレミアアクセスというシステムが導入され、ファストパスに代わる特定のアトラクションの従来のファストパス、パレードやショーを観覧するために、入園料金とは別に1500円~2500円のチケットを一人づつ購入しなければならない。家族四人組ともなればアトラクション一つのために大きな出費を強いられることとなるだろう。

引用:「2024年6月・7月・8月・9月のディズニーチケットの価格カレンダー!現在のチケット値段一覧!」

 

過去の施策

今現在のシステムの効果の前にこれまで行われた施策について紹介していく。ディズニーは開業以来、行列・待ち時間に奮闘し続ける中で多くの知見と経験を積み重ねてきた。アトラクションに乗る前の内装・演出も行列のストレスを緩和する一つの施策である。振り返ってみれば、従来のファストパスもただ単に来園者の待ち時間を減らすためだけのものでなく、ディズニーの巧妙な戦略が裏に隠されていたのである。旧ファストパスはチケット発効後2時間立たないと次のチケットが発行できない仕組みとなっていた。これにより、来園者はより行動の計画が立てやすくなり、ファストパスがなければ長時間並んでいただろう時間をレストランやほかのアクティビティに活用することを可能としたのである。結果として、利益を生むことのできないアトラクションの待ち時間をリゾート、顧客側双方にとってWINWINとなる仕組み作り上げることができたのである。

さらに、VIPツアーも有料化ファストパスの未来を語る上で除くことはできない。VIPツアーはホテルミラコスタなど特定ホテルのスイートに宿泊する顧客のみ申し込みが可能であり、なんとそのツアー料金は最高額660,000円である。対象客室のひとつであるウォルト・ディズニー・スイートの二人分の料金は500,000円であり、加えてパークチケット、食費などを加えると100万円の大台を容易に超えることとなる。ディズニーにより提供される一日の体験がこの金額に見合うか否かは、VIPツアー予約ページの満杯さが物語っている(六月、7月の予約状況は数日あいているだけである)

 

1:ファストパス有料化メリットとは?

チケット料金値上げ、プレミアアクセス導入(ファストパス有料化とパレードの優良席設置)は「高すぎる」「システムが複雑」など批判を呼んでいるが、この変革からもたらされる利点は無視できないものであると考える。行列管理のエキスパートと称されるディズニーのこの大きな一手には、どのような目的があるのだろうか。

顧客体験の向上

ここからは、一体オリエンタルランドどのような視点を持ちチケットの高額化・ファストに踏み切ったのか以下のOLCの中期経営計画を参考にしながら紐解いていきたいと思う。

*2024年中期経営計画の目標がゲスト体験価値の向上
*入園者数2600万にレベル、ゲスト一人当たり売上高14,500レベルを目指す

 

最長の待ち時間500分を記録するディズニーリゾートは、行列とは切っても切り離せないものである。体験を提供することが使命であるテーマパークにおいて長時間の待ち時間は最大の障壁となり、OLCはこれを改善するために様々な施策を講じてきた。2020年中期経営計画においては、ゲストの快適さ向上に向け、キャパシティ拡大を試みていたが、開発可能な土地には限界があり長期的な視点では望ましい方針でないことは明瞭である。そこで2024年の中期経営計画では、チケットの当日販売をなくし、オンライン購入のみに限定したことでチケットの枚数を完全にコントロールすることでコロナの流行前よりも入園者数を制限しているのである。加えて、高価格帯の構成比を拡大し低価格のチケットをさらにアピールすることで、入園者数の平準化を図ることが可能となる。しかし、単純に最大入園者数に制限をかければその分チケット収入が減少することとなる。加えて、入園者数を減らしたからといって必ずしもゲストの体験が向上するとは限らないし、制限したところでまだまだ混雑・行列はゲストにとっては負担になっているだろう。

 

 

引用:「オリエンタルランドホームページ」

そこで、体験価値向上と収益増加を成し遂げるための方策が、プレミアアクセス導入によるファストパス有料化とショー・パレードの有料観覧席であるといえるだろう。

これらの施策はゲストへのプラスではないと批判する者もいるが、実際はディズニーがさらなる価値を顧客に提供する大きなチャンスとなるのである。その一つの要因は、ディズニーリゾートはほかのテーマパークと比べロイヤルティー面において異なる特性である。OLCの調査によると、2回以上来園している顧客は98%、10回以上は60%、30回以上は約20%となっている。つまり、リピータの割合が異様に高く、前述のVIPツアーの現状も鑑みるとディズニーリゾートに対する顧客のロイヤルティーはかなり堅固なものであることがわかる。読者の皆様の周りにも熱狂的なファンがいないだろうか?学生やカップルにとってもディズニーリゾートで得られる体験のオルタナティブは存在しえず、テーマパークのキングとして確固たる地位を築いていることは疑う余地はないであろう。これらの客層に対し金銭を対価にさらなる価値の提供をうけられることはとても魅力的なものであり、ディズニーの競争力の触媒ともなり得る。ハイブランドと同じように消費者は他では獲得しえない価値を感じれば、値段が上昇してもよりより体験に対する対価として支払い意欲を示し、消費者が値段の上昇を価値の上昇とみなすのである。

 

では実際に具体例を見ていきたいと思う。一つ目は、ファストパス有料化からである。現在ファストパスはプレミアアクセスに置き換わり、1500円~2000円支払うことでアトラクションに短い待ち時間で乗ることができ、パレードやショーを予約席で見ることが可能になった。ディズニーはシステム上時間の許す限りどんなアトラクション・ショーでも楽しむことができるが、遠方からのゲスト、子連れの家族などにとっては状況が異なってくる。また、時には数時間にも及ぶ行列は辟易している人も少なくないであろう。そのような人々にとってプレミアアクセスはより効率的でストレスフリーなディズニーを満喫することができる。しかし、このシステムの核心はゲストそれぞれの要望を各々の優先順位において実現することができるという点である。ディズニーにはそれぞれの楽しみ方が存在する。アトラクションを沢山乗りたい人、パレードやショーをベストポジションで見たい人、パーク内の雰囲気を楽しみたいひとなど多種多様に存在する。そんな大多数の混在する願いを最大公約数実現するためにディズニー・プレミアアクセスが誕生したのではないかと考えられる。時間の制限がある以上全員にすべての体験を提供することは不可能であるが、追加のお金を払ってでも絶対に成し遂げたい目的がある人々に対しては優先的に最高のサービスを提供することができる。

 

データエコシステム構築

さらに、もう一つファストパス有料化によるもたらされるメリットとはデータエコシステムの構築が可能になるということです。ファストパスの有料化に伴うDPAなどのオンラインシステム、公式アプリの導入により、ゲストのパーク内におけるアトラクション・ショーの選択、レストラン・グッツなどの消費活動のすべての情報を集約できるようなった。これにより、ディズニーリゾートはゲストにコンテクスチュアル・マーケティングを行うことができる。アプリをインストールしたスマートフォンはインターネットかBluetoothに常時接続されているため、パーク内のセンサーと通信することができる。センサーがゲスト情報を感知し、データを得て、データを処理しゲストをプロファイリングする。そして、プロファイリングに基づいたパーソナライズされた応答を送信、もしくはキャストにアクションを促すことができる。ゲストのデータはリアルタイムでの反応だけでなく、データの蓄積を分析しゲストの行動パターン予測、よりスムーズなパーク運営にも生かすことができる。機械学習により最適化されたプレミアアクセス券の分配やパーク運営スタッフの配分を行うこともできる。

 

 

日本ではいまだ導入されていないが、ディズニーワールドではMagic BandというRFIDが内蔵された腕輪が存在する。このバンドは、ディズニーリゾートがよりパーソナライズされた体験をゲストにと届ける大きな助けとなっている。タッチ決済から、ホテルのカギ、レストラン・アトラクションの予約もこのバンドひとつですべて行うことができるのである。さらにはバンドをスキャンしてもらうことで、キャストのカメラで撮ってもらった本格的な写真をアプリで閲覧することができ、アトラクションでの写真もあとから閲覧することができる。今後、デジタルネイティブが人口の半分を占めようとする世の中でデジタルデバイスの活用を毛嫌いする人は極めて少ないであろう、むしろこのようなテクノロジーを活用した価値提供を行っていくことはディズニーリゾートが成長し続けるためには必要不可欠といえるであろう。

引用:「How MagicBand+ Work at Disneyland and California Adventure Park」

2:新たなターゲティング

新エリアファンタジースプリングスと共に開業したパーク一体型ホテルである。二つの棟のうちのひとつ最上級と称されるグランドシャトーは一泊35万からと庶民には目玉の飛び出る金額となっている。では、なぜこのような最高価格帯のホテルを新エリアに建設したのであろうか?この答えは、高価格帯客層のディズニーファンと海外ゲストへの価値の最大化である。前述にあったように、ヘビーリピータとVIPツアーの人気さは証明されており、これに加え下記図にあるように海外ゲストの増加の傾向が顕著である。特にディズニーシーは2022年にアプローズ・アワードを受賞しており世界的に知名度のあるテーマパークとなっていて、円安とコロナ後の旅行熱に乗るためにも海外勢取り込みは必須であろう。

引用:「オリエンタルランド2024年中期経営計画」

宿泊プランにはアトラクションチケット八枚とショー鑑賞用チケット4枚が付随し、全56部屋一部屋一部屋の要望に沿ったサービスを提供することができる。ホテル宿泊者(高価格帯の客層)に対しパークとホテルを統合させた演出が可能となり、現在行われるような新エリアの優先・専用提供が可能となっている。ディズニー内の高級ホテルというのは単なるいいホテルというよりも、パークでの体験価値を最大化するために大きな役割を担っているのである。OLCも全ゲストがこのようなホテル宿泊したいと思うことは想定していない、むしろプレミアアクセスと同様に多種多様なディズニーに対する期待に応えるために選択肢を用意しているにすぎないのである。

 

3:変化による将来への影響

ディズニーのこれらの変革は多くのメリットをもたらすことは間違いないが、チケットの値上げ・ファストパスなどの有料化は家族や小さいお子様を連れたゲストには少なからず悪影響を及ぼすであろう。特に、プレミアアクセスは一人一枚、大人子供関係なく必要なので子連れの親には些か負担が大きくなっている。

前述の通り、ディズニーは90%以上のリピーターの顧客と熱烈なディズニーファンにより支えられていて、高額なVIPツアーや高級ホテルもディズニーを愛する人々がいるからこそ成り立ちビジネスモデルである。ディズニーが好きになる要因は人により様々であると思うが、OLC決算報告書にある来園者数の年齢分布を見てみるとひとつの考察が得られる。図(No)から明らかなように40代以上の客層が過半数を占めており、年々その割合は増加している。ここから考えられるのが、現在40歳以上の層が子供の時にディズニーに楽しい思い出を持ち、大人になってもまだディズニーにもう一度行きたいと思っているということであるーリピート率の高さとディズニーコンテントの中身を考慮すると40代層の多くが大人になってから興味を持ち始めたとは考えづらい。2014年の決算説明会においても、OLCは40代以上の来園者が増加している要因のひとつとして子供のころの思い出が挙げられると答えている。そのため、現在行われている一人当たりの売上高を上げる政策は将来の根強いディズニーファンの芽を摘んでしまう可能性を孕んでいる。

テーマパーク=こどものためというイメージが少なからず存在するが、ディズニーにとってそれは当てはまらない。ウォルトディズニーの信念は「あらゆる世代が一緒に楽しむことのできる‘ファミリーエンターテインメント’を実現したい」である。将来こどもをパークに連れていく、現在こどもであるおとなのファンを作り上げていかなければ世代を渡っていくことを望むウォルトディズニーの願いを果たすことはかなわないであろう。ファミリーエンターテインメントの概念である世代を超え、国境を超え、あらゆる人々が共通の体験を通してともに笑い、驚き、発見し、そして楽しむことのできる世界を実現するために、現在行われている施策と並行して、家族・こどもを優遇するシステムが作られることを願っている。

 

参照

オリエンタルランド2024年中期経営計画

2013 年 3 月期 決算説明会 質疑応答

なぜディズニーは98%のリピート率を誇るのか? 顧客満足向上に必要な6つの要素

Amusement today

2024年06月21日 2024年6月・7月・8月・9月のディズニーチケットの価格カレンダー!現在のチケット値段一覧!

オリエンタルランド パーク運営の基本理念

 

進化する自動販売機、アプリ導入が変える自販機業界の未来とは

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