Blog/Opinion

MMMと他手法を徹底比較|効果測定の正しい選び方(後編)

MMMと他手法を徹底比較|効果測定の正しい選び方(後編)

投稿日:2025年8月28日/更新日:2025年8月28日

MMMと他手法を徹底比較|効果測定の正しい選び方(後編)

前編では、代表的な効果測定手法として MMM(Marketing Mix Modeling)・MTA(Multi-Touch Attribution)・A/Bテスト(インクリメンタリティテスト)・階層的重回帰分析を紹介しました。
後編では、これらの手法を比較しながら、どの手法をどの状況で使うか、またどのように組み合わせるかを解説します。

まずは、手法ごとの特徴を一目でわかる比較表で整理してみましょう。

MMMと他手法の比較表

 
比較項目 MMM MTA A/Bテスト 階層的重回帰分析
分析視点 マクロ(全体最適) ミクロ
(ユーザー行動ベース)
ミクロ(特定施策単位) マクロ~ミクロ
(構造化次第)
目的・用途 実績評価
将来予測・予算最適化
デジタル施策の貢献度測定 特定施策の因果関係を明確化 複雑な要因の貢献度分析
主な測定対象 オンライン・オフライン広告
販促費
外部要因
デジタル広告
ウェブ上のタッチポイント
特定の施策
クリエイティブ、ランディングページなど
複数のマーケティング施策
外部要因など
データソース 集計データ(施策費、KPI、外部データ) ユーザー単位の行動データ、Cookie情報 テストグループごとの効果データ 集計データ
ユーザー行動データなど
Cookie依存 依存しない 高依存 依存しない 依存しない
オフライン施策 可能(TV、OOH、雑誌など) 不可(デジタルのみ) 難しい
(実験設計次第で一部可)
可能(設計次第で可)
因果関係の把握 弱い(相関ベース、工夫すれば近似可) 弱い
(相関分析が中心)
強い
(因果関係を直接検証)
中(相関+段階的に因果近似)
導入ハードル
(データ収集・統計知識必要)
中(ツール導入で可能、ただしCookie規制で精度低下) 低〜中(設計力とサンプル数が必要) 高(統計知識・モデリングスキル必要)
分析に必要な期間 中長期 短期~中長期 短期 中長期
主な活用シーン 予算配分、事業戦略の意思決定 デジタル施策の最適化
運用改善
特定施策の効果検証
ランディングページ改善
複雑な要因分析
MMMの精緻化、地域/属性別分析

 

使い分け、併用のポイント

ここまで紹介してきた4つの手法は、どれか1つを選べば十分というものではありません。それぞれに得意・不得意があるため、目的や状況に応じて使い分けたり、併用することが実務では非常に重要です。

手法ごとの使いどころ

① 中長期の戦略設計にはMMM
例えば、ある飲料メーカーが「テレビCMに1億円投下すべきか、それともデジタル広告に振り分けるべきか」を判断したい場合、MMMが最適です。
テレビCMや交通広告などオフライン施策も含めて、どのチャネルが売上に貢献しているかを統合的に分析できます。分析結果をもとに、来年度の予算配分や経営判断に活用できます。

② デイリー運用の改善にはMTA
広告代理店やインハウス運用担当者が、「今週のFacebook広告とYouTube広告、どちらに予算を寄せるべきか」と判断したい場合、MTAが役立ちます。
ユーザー行動を追跡し、各広告のコンバージョン貢献度を可視化できるので、短期的なPDCAサイクルに活用可能です。ただし、Cookie規制によって精度が低下する点には注意が必要です。

③ 施策単位の検証には A/Bテスト
ECサイトで「購入ボタンの色を青から赤に変えると購入率はどうなるか」を確かめたい場合、A/Bテスト(インクリメンタリティテスト)が有効です。
グループ分けして比較することで、「ボタン色の変更が購入率を3%押し上げた」といった因果関係を明確に示せます。小さな改善を積み重ねて成果を最大化するには欠かせない手法です。

④ 複雑な要因を分解するには階層的重回帰分析
小売チェーンが「店舗の立地、キャンペーン、SNS施策、天気」など複数の変数を分析したい場合、階層的重回帰分析が有効です。
MMMの一部として組み込むことで、「都市型店舗ではSNS施策が効果的だが、郊外型ではチラシが効く」といった精緻な洞察を得られます。
※高度な統計知識が必要なため、社内のデータサイエンティストや外部パートナーと連携するケースが多いです。

 

実務での手法併用例

実務では、1つの手法だけでマーケティング成果を最大化することは少なく、複数の手法を組み合わせるのが一般的です。
たとえば、中長期の戦略の設計にはMMMを使い、その結果をもとにデジタル広告の運用をMTAで細かく最適化する、といった使い方が考えられます。
また、マクロ視点とミクロ視点を組み合わせることも有効です。MMMで「テレビ広告には一定の効果がある」と把握したうえで、A/Bテストを通じてYouTube動画の最適な長さを検証する、といった例です。
さらに、全体施策の効果を把握した後、階層的重回帰分析を活用して地域や属性ごとの効果を深掘りすることもできます。
このように、手法を連動させることで、戦略の精度を高めつつ、実務での施策改善を効率的に進められます。

 

まとめ

本記事では、MMMをはじめとする主要な効果測定手法を取り上げ、それぞれの目的や強み、使いどころ、そして実務での組み合わせ方について解説しました。

Cookie規制の影響により、従来の手法ではマーケティング効果を捉えにくくなっている今こそ、複数のアプローチを理解し、自社の課題に合わせて使い分けることが重要です。一つの手法ですべてを解決することはできませんが、それぞれの強みを活かし組み合わせることで、マクロとミクロの両視点から精度の高い改善が可能になります。重要なのは自社にとっての問いを明確にし、それに適した手法を選ぶことです。中長期の戦略設計にはMMM、日々の広告運用にはMTA、施策単位の検証にはA/Bテスト、要因の分解には階層的重回帰分析、といった形で役割を整理することで、効果測定の取り組みがより実践的なものとなります。

データに基づく確かな意思決定こそ、限られたマーケティング投資を最大限に活かし、持続的な成長を実現する鍵となるでしょう。

 


弊社では、MMMをはじめとする効果測定の設計・運用を支援し、マーケティング投資の最適化をご支援しています。

「MMMを自社で導入できるか知りたい」
「効果測定の設計について相談したい」

といったご要望がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

お問い合わせはこちら

 

参考
https://www.hakuhodo.co.jp/aaas/assets/doc/news/mmmguidebook/mmmguidebook.pdf

https://www.adjust.com/ja/blog/what-is-multi-touch-attribution/

https://www.adjust.com/ja/blog/what-is-incrementality/

https://xica.net/xicaron/list-of-statistical-models-in-marketing/

 

関連記事

MMMと他手法を徹底比較|効果測定の正しい選び方(前編)

scroll