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レシートレスは普及しつつあるのか?小売業界にもたらすチャンスと課題

レシートレスは普及しつつあるのか?小売業界にもたらすチャンスと課題

投稿日:2023年11月21日/更新日:2023年11月21日

レシートレスは普及しつつあるのか?小売業界にもたらすチャンスと課題

紙のレシートは、私たちの日常生活でおなじみのものだ。商品を購入するたびに、レジで紙のレシートを受け取り、財布やバッグにしまいこむ。

しかし近年、新たな風が吹いている。政府のDXとESG(Environment, Social, Governance)の呼びかけに応じて、多くの企業がさまざまな動きを見せている。小売業界では、店舗DXの一環として電子レシートを導入する企業も出てきた。 最近、イオンが「iAEON」アプリをリリースし、レシートレス(Receiptless)機能を正式に提供し、2024年度に全国展開予定を発表したことも注目を集めた。

デジタル時代の台頭に伴い、レシートレスが普及しつつあり、小売業界には新たなチャンスと課題が浮かび上がっている。本記事では、どのようなチャンスや課題があるのか、具体的に紹介する。

チャンス:

  1. 環境への貢献

紙のレシートの使用は、環境に対する負荷を軽減する面で大きなチャンスだ。電子レシートの採用により、大量の紙消費が削減され、森林保護にも寄与する。2017年にアメリカで行われた検証調査では、730万人の顧客層が電子レシートを選択した場合、1年間で地球2周分、約82,296kmのレシート用紙を節約できることが証明された。

  1. コスト削減

小売業者にとって、紙のレシートの発行にはコストがかかる。5万円以上のレシートを発行すればさらに印紙税が発生する。それに対して、電子レシートを使用すれば、レジでの店員と顧客との物理的な接触を減らすことを意味し、顧客の体験を向上させ、関連業務にかかる時間も短縮できる。

これらのメリットにより、業務効率を向上させ、収益を最適化するチャンスが広がる。

  1. ブランド力向上

政府のESG呼びかけに応える行動として、前向きに対応する企業は企業イメージを向上させることが期待できる。 環境に配慮する傾向が強まっている今の消費者の目には、ブランド力を上げるチャンスが大きい。

  1. データ分析に有益

電子レシートは消費者の購買データをデジタルで記録するため、貴重な情報源となる。ユーザーの同意を得た上で、小売業者はこれらのデータを分析し、消費者の購買傾向や好みを理解することができる。この情報を活用して、在庫管理を改善できる。また、パーソナライズされたプロモーションや商品提案を提供し、顧客忠誠度を高めることも可能となる。

課題:

  1. プライバシーとセキュリティ

何事にも二面性がある。 企業にとってデータは分析価値があるが、消費者にとっては情報漏洩のリスクがある。電子レシートには消費者の個人情報が含まれることがあり、そのデータのセキュリティとプライバシーが懸念される。データ漏洩や不正アクセスに対する適切な保護措置が不可欠で、小売業者は顧客情報を確実に保護する責任がある。このデータ収集と保護システムをどのように設計し、実施するか、そして消費者とどのようにコミュニケーションをとるかが課題の一つとなる。

  1. 新技術導入&スタッフトレーニングのコスト

電子レシートにより、一方は紙のコスト削減、もう一方は新技術導入とスタッフトレーニングのコスト発生、そのバランスをどうとるかは各企業の課題だろう。そして、DXされたレシートを提供するためのシステムと機器には、障害などが生じる可能性がある。小売業者は、システムの運用とメンテナンスに対する適切な投資を行う必要がある。

  1. デジタル格差

電子レシートを受け取るためにはスマートフォンやインターネットアクセスが必要である。しかし、一部の消費者はこれらのテクノロジーにアクセスできない場合があり、デジタル格差が問題となる。小売業者は、すべての顧客を考慮に入れる方法を模索しなければならない。これも電子レシートの完全な普及の難しさである。 将来的には、電子レシートと紙レシートが共存する長い移行期間があるかもしれない。

  1. 消費者の受容性(心理要素)

一部の消費者は、紙のレシートに対する慣習が根強く、電子レシートに対する受容性に個人差がある。

2018年に東芝が主催した調査から見ると、電子レシートの心理的受容度は高く、回答者の76.1%が「電子レシートだけで受け取りたい」、「できれば電子レシートで受け取りたい」と答えた。

電子レシート実証実験報告

引用:経済産業省『電子レシート実証実験報告』

このような高い比率であれば、電子レシートを推進する価値はある。しかし、小売業者は、新たな技術の導入において消費者の期待と適応のバランスを取ることが重要である。顧客の意見を尊重し、段階的な移行を検討することが有益だろう。

まとめ

レシートレスの台頭は小売業界に変革をもたらす可能性を秘めている。環境への配慮、コスト削減、データ活用などのメリットが存在するが、プライバシー保護やデジタル格差などの課題も克服しなければならない。小売業者は、これらの課題に対処し、消費者と協力して、より効率的に持続可能な未来を築くために取り組む必要がある。

 

参考:

  1. https://markezine.jp/article/detail/43860
  2. https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/smartsupplychain.html
  3. https://business.ntt-east.co.jp/bizdrive/column/dr00012-054.html

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