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取引コスト理論(TCE)はどのようにマーケティングに応用できる?

取引コスト理論(TCE)はどのようにマーケティングに応用できる?

投稿日:2024年2月22日/更新日:2024年2月22日

取引コスト理論、Transaction Cost Economics(TCE)は、ロナルド・コースが1937年に初めて提唱した、取引の際に生じるコストと企業の意思決定を分析する理論であるが、実際のビジネスにはどのように応用できるのだろうか。

今回は取引コスト理論の概要と、そのマーケティング領域への応用について紹介する。

 

取引コスト理論とは

取引コスト理論とは、取引の際に生じるコストに注目し、それを最小限に抑えるような組織形態をとるべきであると主張する理論である。

 

取引コストとは

取引コストは、取引にかかる全般の費用を指す言葉である。コースによると、取引には3つのコストが伴うとされる。

・探索コスト:取引相手を探すためにかかる時間や手間などのコスト

・交渉コスト:取引契約を結ぶために交渉するときにかかるコスト

・執行コスト:契約後に取引が適切に行われているかを監視するためのコスト

これらをまとめて取引コストという。

取引コスト = 探索コスト + 交渉コスト + 執行コスト

 

企業がなぜ存在するのか

コースによると、そもそも企業はこの取引コストを削減するために生じると言われる。

ある財・サービスを提供するときに、必要資源を市場から調達し、設計・製造・販売もすべて委託する、という場合よりも、人を雇って組織の内部で製品を設計、製造するようにする方が効率的で手間がかからないから、人々は集まって企業になる。つまり、

組織内取引コスト < 市場取引コスト

のときに企業組織が生まれる。

このように、企業は取引コストを節約するように行動するものだとすると、市場取引よりも内部で行った方が取引費用の低い部分は企業の内部で行われ、そうでない部分は企業の外部で取引される。したがって取引コストの考え方を用いると、どこまでを自社で行うべきで、どこまでを外注するべきなのかを決定することができる。

 

取引コスト理論のマーケティングへの応用

取引コスト理論を用いて説明できるマーケティング活動の例について紹介する。どれも自社で行うか、外部委託するのかという軸で取引コストを用いて説明することができる。

 

購買活動

製品の材料を外から買う場合の取引費用が安ければ外注し、内製化した方が取引コストが抑えられる場合は自社で作る。

例えば、一般的にレストランはわざわざ食材を一から作らず、業者から仕入れる。しかしレストランチェーンとして有名なサイゼリヤは、自社にとって最適なレタスを種から開発し、自社農場で育てている。これは、サイゼリヤが望むレタスを栽培する農家を見つけるコスト、その後取引を結ぶための交渉の手間などを踏まえると、自社で生産する方が取引コストを下げることができたからだろう。

 

流通

流通業者に委託する場合と自社で流通する場合とで取引費用を比べ、低い方を選択する。

製造業でありつつも自ら物流を行う企業として有名な山崎製パンは、生活必需品であるパンを確実に消費者に届けるという社会的責任を持つと自社を位置づけ、2024年1月1日に発生した能登半島地震の際にも緊急物資をいち早く被災地に届けたことでXでトレンドにもなった。これを取引コストの考え方から説明すると、物流業社の中に山崎製パンと同じ志を持ち、災害時にいち早く優先して山崎製パンの物流を行ってくれるような取引相手を探し、交渉を締結するには大きな取引コストが伴うため、自社で物流も担っているといえる。

 

販売

販売に関して、自社の直営店または小売業者の委託のうち、取引費用の低い方を選択する。

上記の続きとして、山崎製パンは自社の直営店であるコンビニエンスストアチェーン、デイリーヤマザキも持つ。このことも、日本全体に広く拠点を持ち多くの人に商品を届けるという目的を達成するためには他のコンビニエンスストアチェーンのみに頼ろうとする場合、取引費用が高くなることから説明できる。

 

プロモーション

内製時の取引コスト vs 外注時の取引コスト

企業は製品・サービスのプロモーションのために広告代理店などに委託しプロモーションビデオなどを作成してもらうことができるが、もしその内容に細かくこだわりたい場合は取引相手との調整の手間や時間が多くかかることが予想される。そうであれば、自社内の広報部門に投資し、内製できる体制を整える方が取引費用の面から良い選択となる。

 

デジタル・マーケティング

内製時の取引コスト vs 外注時の取引コスト

インターネットやデジタルのツールを用いたマーケティングは近年当たり前のものになりつつあるが、人材が不足していることや人材育成の難しさなどから、デジタル・マーケティングを完全に内部化することの取引コストが高い。このようなとき、その分野に特化した外部のコンサルティングファームに依頼することの取引コストが内部化するときよりも低いのであれば、デジタル・マーケティングをアウトソースすることが良い選択になる。

 

まとめ

この記事では取引コスト理論とは何か、またそのマーケティングへの応用例についてまとめた。取引コスト理論は内部化理論とも呼ばれ、どこからどこまでを自社の範囲とするべきかを説明することのできる理論であり、幅広い経営・マーケティング活動に応用が可能である。内部化、外部化にかかる取引コストを適切に把握・比較することにより、企業によって最適な組織形態を導き出すことができるだろう。

 

参考
  1. 菊澤研宗『組織の経済学入門—新制度派経済学アプローチ』(有斐閣、2016)
  2. 取引費用理論(TCE) 【解説動画】『世界標準の経営理論』#7 | 戦略|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
  3. 自社工場 サイゼリヤ農場の取り組み|お値打ち品のための取り組み|サイゼリヤ (saizeriya.co.jp)
  4. オンリーワンビジネスモデル | ヤマザキの「カルチャー」 | 山崎製パン株式会社 リクルートサイト (yamazakipan.co.jp)
  5. 「山崎製パン」が自社トラックを持っているのはなぜか:数字のオモテとウラを学ぶコラム(3/4 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン
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