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ポーター 5Forces でサントリーウィスキーの競争要因を整理してみた

ポーター 5Forces でサントリーウィスキーの競争要因を整理してみた

投稿日:2021年2月11日/更新日:2024年1月23日

5 forces

はじめに

マイケル・ポーターは、 5 Forces として企業を取り巻く競争要因を5つあげ、その競争が多次元にわたることを示しました。

今回はそんなポーターの5つの競争要因、5Forceについて概説し、ウィスキー市場を席巻したサントリーを例に各要因を説明していきます。

今回の内容に関連する記事はこちら☞7つの基本的マーケティング戦略

 

マイケル・ポーターの言う5Forceとは?

競争環境を把握するには、まず業界の競争構造を分析し、基本的性質を明らかにした上で、競争戦略の分析によって具体的行動を捉える必要があります。

ポーターによれば企業の競争相手とは、①競争業者、②供給業者(=売り手)、③顧客(=買い手)、④新規参入者、⑤代替品の5要因に振り分けることが出来ます。

 

企業は供給業者から商品を仕入れて、モノをつくり、顧客に売りますよね。

この時、取引する生産物が消費財であれば消費者が、産業材であれば企業が買い手になります。

 

この仕入れ→製造→販売までを川の様な縦の流れと捉えて、垂直的競争要因と呼びます。

 

対して、④新規参入者⇄①競争業者⇄⑤代替品の関係は、さながらそれぞれの川が互いに競い合う様相であり、水平的競争要因と呼ばれます。

 

ポーターは、目前の競争業者に限らず、売り手と買い手の交渉力、さらに未だ見ぬ新規参入者や、業界の外に存在する代替品の脅威など、全ての競争要因を俯瞰的に認識する必要性を強調し、そのためのフレームワークが5Forceであるわけです。

またこうした考えは今日のコンサルでも基礎的なフレームワークとして浸透しています。

 

サントリーウィスキーと5Forces

例えば、日本のウィスキー製造業を考えると、昨今は酒類各社が相次いでハイボール(ウィスキーのソーダ割り)で攻勢をかけ、消費の落ち込む酒類市場に挑んでいます。

 

中でもサントリーのスピリッツ事業部(現・子会社)は、角や山崎など、ジャパニーズウィスキーを世界に知らしめた業界の立役者です。

ちなみに国内のウィスキー市場はサントリーが6割、アサヒが3割のシェアを持ち、業界集中度は極めて高いと言えます。

 

①水平的競争要因

5Forceに関し、まずサントリーの水平的競争要因を整理すると、競争業者はブラックニッカを売り出すアサヒと、富士山麓のキリンが挙げられます。

 

また2014年の発売以来人気を博すイチローズモルトを手がけた秩父蒸溜所は、有力な新規参入者と言えるでしょう。

 

ウィスキーの代替品としてはブランデーやワイン、ビールなどが考えらるので、アルコール産業全般が脅威となりえます。

 

こうした数々の脅威に対し、サントリーは競合の買収やフルライン戦略など、大企業ならではのパワフルな応戦を展開しています。

 

サントリーが盛んにウィスキー事業を買収してきたのは有名な話しです。

 

競争業者のジム・ビームやメーカーズマークをはじめ、ジャパニーズ、アイリッシュ(アイルランド)、スコッチ(スコットランド)、アメリカン、カナディアンと、世界の5大ウィスキーすべてをM &Aで取り込み、幅広いフレーバーでウィスキー市場の隙間を埋めているのです。

 

 

 

 

また、サントリーはウィスキーの価格帯も山崎や響のような高級ウィスキーから、角やトリスのように手頃なものまで徹底的に取り揃えており、まさしく驚異のブランド増殖戦略を仕掛けていると言えるでしょう。

 

これにより、新規参入者がウィスキー市場の隙間(ニッチ)に入り込む余地をなくし、強固な参入障壁を築いています。

 

さらに、サントリーはワインやビール、清涼飲料水からミネラルウォーターまで事業展開が幅広いので、それがフルライン戦略として代替品の脅威を退ける役割を果たしています。

 

②垂直的競争要因

つづいて垂直的競争要因を整理すると、サントリーは供給業者である契約農家または農協からウィスキーの原料である大麦やトウモロコシを仕入れています。

 

そしてウィスキーを製造したのち、系列化した卸売業社を通して小売業者に、またはECサイトのイエノバを介して消費者に直接販売しており、消費者・企業の双方が買い手となります。

 

こうした垂直的競争要因に対して、サントリーは売り手には高い川上統合度で、買い手には流通系列化とブランド・リポジショニングで対応しています。

 

より具体的には、強力なバイイングパワーを活かして契約農家を専属化し、川上統合度を高めることで、原料の大量仕入れを安定した低価格で可能にしています。これは日本の大手酒類メーカーとして当然と言えば当然ですね。

 

また、流通系列化によって卸段階を取り込み、付加価値の源泉となる上流から下流までをまとめて垂直統合しています。

 

さらに、サントリーハイボールはブランド戦略上製品のポジショニングに見事成功した希有な例として知られています。

 

かつてはアルコール度数が高く、中年男性が好むイメージであったウィスキーに、炭酸で割ったハイボールという新たなスタイルで訴求し、若年層や女性層にヒットしました。

 

低糖質ブームも相まって、ビールからハイボールへ切り替える消費者が増えたこともあり、一早くウィスキー市場のシェアを獲得したサントリーは見事に大勝利を収めました。

 

おわりに

以上、今回はポーターが主張した5Forceを挙げ、産業としてウィスキー製造業を取り上げました。

また、国内ウィスキー市場シェアの6割を占めるサントリーを事例に、競争業者、新規参入者、代替品の水平的競争要因と、供給業者、買い手の垂直的競争要因を具体的に示しました。

サントリーが展開するそれぞれの競争要因への戦略対応を見ることで、なぜサントリーがウィスキー市場の覇権たりうるのかよく理解できますね。

このように、企業の競争戦略を考える際には、まずもって企業を取り囲む競争要因を洗い出し、競争構造を整理した上で、個別の競争戦略を分析・評価する必要があります。

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