テレビとNet

爺の雑言 – 勝ち残りたいなら、テレビ局はネット配信共同化を急げ

テレビ局営業の顔色が冴えない。コロナの影響でテレビスポットの売上がリーマンショック以上に大幅に落ち込んでいるからだ。事実、2月27日の一斉休校発令後ACジャパンのCMが急増してきた。加えて東京五輪の延期(たぶん中止だろう)はテレビ各局には大きな痛手となる。目立ったのは、小池東京都知事の「都民の皆様へ」という自粛要請CM(前回公約「7つのゼロ」は全く達成できてない。本当は隠れ本命公約「すべて達成ゼロ」の「8つのゼロ」の小池さんによる公費を使った「都知事選挙事前アピール広告」)だが、民放各局には無いよりましなCMだった。

テレビは視聴者から見ると「無料の娯楽」で、ビジネスから見ると「広告メディア」である。家庭のテレビは今もよく見られている。だが、テレビ最盛期と大きく違うのは、テレビは「点いているだけ」で、同時に家族の各々がスマホの画面を眺めている。面白そうなシーンになるとテレビ画面に目を移し、CMが始まるとスマホに目を落とす。そうなると「一番見られているメディアだから一番広告費がたくさん落ちてくる」という基本前提が崩壊する。テレビとネット間で急速にパワーシフトが起き、このままだとテレビ業界は構造不況業種に陥っていく可能性がある。CMでは通販が目立ち(いい意味ではない)、テレビ広告媒体価値の地盤沈下が見て取れる。

コロナ自粛によりテレビ受像機でAMAZONプライム・ビデオやNetflixを見る時間が増えたという声を多く聞く。爺も以前から利用していたAMAZONプライム・ビデオに加えNetflixに加入してシリーズ物を楽しんでいる。テレビ放送に接する時間は大幅に減った。そこで問題にしたいのは民放のネット配信への取り組み姿勢である。実に悠長だ。

YouTubeがグーグルに買収された2006年は、世界の動画配信サービスの大きな転換点と言われている。2007年には米国レンタルDVDの大手Netflixがネット配信に移行。2008年にはNBCやFOXそしてABCなどが動画配信サービスHuluでサービスを開始した。英国ではBBCが同じ英語圏内での流れに乗り遅れぬように2008年から無料の同時配信・見逃し配信サービスを提供した。その動きに民放のITVも追随した。さらに2009年からはBBCとITVが共通プラットフォームで有料配信を行っている。

英米国では月額数千円から1万円以上という高額な利用料のケーブルテレビから安価なネット配信に乗り換える人が続出、急速に普及した。日本では無料のテレビ放送の普及度が高く、有料サービスはすぐには受け入れられないという読みが多数だった。加えて、日本語という言語の参入障壁に守られ、海外動画配信サービスが日本に進出したとしてもビジネスへの影響は限定的だと見ていた。事実Huluは11年に進出したが苦戦し、14年に事業を日本テレビに売却することになった。だが、16年にNetflixやAMAZONプライム・ビデオが日本に上陸したあたりから様相が変りはじめる。AMAZONは多くの会員を抱えるネット通販送料無料のプライム会員に追加料金なしで動画サービスの利用ができるという強力な施策を打ち出した。さらにコンテンツの充実をはかり日本のアニメやドラマ、映画などを加えていまや会員数(500万人超)を獲得している。Netflixもアニメやバラエティなど、「ここでしか見られない日本語のオリジナル番組」を制作・配信している。まだまだ米国で全世帯の半数近く、英国では4割以上を占めている状況には及ばないものの着実に会員数を伸ばし300万人程度になっている。また、スポーツ専門DAZNの会員数も300万人に迫る勢いともいわれている。

日本の民間有料放送は2020年3月末データで、スカパーは約317万件、WOWOWは約285万件の契約だ。いずれも全世帯(5,500万世帯)の6%弱の規模で、今後契約数が大きく伸びる見込みはない。ということは、有料通信配信サービスの契約数にもおのずと限度があり、パイの取り合い競争を覚悟しなければいけない。

テレビ離れは加速する。特にZ世代(2000年~2010年代生まれで幼い時からネット環境の中で育った世代)とミレニアム世代(1980年~2000年前半生まれ)のテレビ離れは顕著だ。テレビ放送はテレビの設置してある場所で、その時点で放送局側から提供されているものしか見ることができない。それは「不便で時代遅れなモノ」にもなっている。テレビ離れが起きても当然だ。広告媒体としての競争力も落ちていく。対してネット動画は、いつでもどこでも、スマホでもテレビという「箱」でも自分が見たいものを探して見ることができる。

テレビ離れした人たちにテレビの番組を見てもらうためには、その人たちが利用している場所であるネットに進出していくしかない。有料動画配信サービスもいずれ地上波と同じように動画CMを流し無料サービスも加えてくるはずだ。それはメディアとしての影響力がさらに強まるということだ。動画配信サービスはCMを「流す人を選ぶ」ことができ、「おすすめ広告」を配信できる。テレビよりも広告配信エンジンを持っている会社の力のほうが上になるのだ。それは、テレビ局からネット動画配信サービスに収益が移行するということだ。

米英に遅れること十数年、NHK+(プラス)は3月1日から同時配信、見逃し配信、追っかけ配信の試験利用を開始した。最初の2日間で利用登録数は約10万契約と順調な滑り出しとなった。年度内には350万契約を目指すという。NHKは強制的な受信料体制(2,284万2,678件)に守られ経営的に不安が少ない。放送受信料以上の追加視聴料(放送受信料を払っていない人は視聴料が必要)は発生しない。それだけ有利な競争展開ができる。

2015年10月スタートした民放キー局が連携した初めての民放公式テレビポータルサイトTver(約170番組が番組終了後から約7日間無料で視聴可)は、NHKプラスの出現で、Tverのものたりなさを際立たせた。キャッチアップサービス(リアルタイムで視聴できなかったユーザーに対して見逃し配信)の提供だけだからだ。

そもそも民放各社がTverを設立した理由は無料で視聴される違法動画対策にあった。自分たちが権利を持つ番組が許可なく無料動画サイトに違法にアップロードされている現実に対して、民放各社が番組をまとめて無料視聴できる見逃しサイトTverを作ったのだ。あくまで地上波放送がベースにあって、その補完としてのTverなのだ。しかも一部の人気ドラマがTverでは無料配信されていないのも残念なところである。Tverの運営は民放のテレビ局と広告代理店が出資しているプレゼントキャストという会社が行っている。民放各社は広告費が経営の柱であることから電通をはじめとした広告代理店とは切っても切れない関係がここにもある。

今年4月7日にテレビ朝日がKDDIと合同で「TELASA(テレサ)」を月額562円(税別)で開始したことで、やっと民放キー局の動画配信プラットフォームが揃った。日テレはHulu(月額税込1,026円)、TBSとテレ東がParavi(月額税込1,016円)、フジTVはFOD(フジテレビオンデマンド月額税別888円)だ。料金体系が違うのは選べるコンテンツ量サービスの違いからだろうか。ここで疑問なのは、各局の経営基盤が違うとはいえ、何故一緒にやらないのだろうか?放送局はデジタル化に向かって会社の形を変えるデジタル・トランスフォーメーションに取り組む必要がある。稼ぐのにキー局だのローカル局だのと言っている場合ではない。放送ビジネスの考え方からネットビジネスの考えに頭を切り替えることが必要だ。この戦いは契約加入者が多いほど有利になる。一人の加入者がいくつもの有料動画配信プラットフォームに入ることは少ない。そこで加入契約者の取り合いになる。そうなると、選べるコンテンツが多く、契約料金が安くてValue for Moneyのプラットフォームと契約するのは明らかだ。選べるコンテンツ(海外作品も含む)を多くするには資金力が鍵になる。競争相手は放送局ではなく、NHK+(プラス)、AMAZONプライム・ビデオ、Netflix、DAZNになる。だから各局が中心になって通信会社、広告会社も参加出資した動画配信プラットフォーム会社を作り、全局の全番組が共通のプラットフォームで大多数の無料(広告あり)顧客と特別の有料顧客でなるフリーミアム戦略で配信されるようすべきだ。フリーミアムに加えて特別なイベントでの視聴課金制も考えられる。そうなるとメディアとしても劇的に進化できるのだ。ツイッターやフェイスブックなどと直接つながることもでき、ネット広告の最先端のアドテクノロジーが使えるようになるのだ。不便で時代遅れになってきたテレビ放送が生まれ変われる。

新型コロナ不況で放送広告激減は見通しがきかない状況に突入した。民放キー局にとって新しいビジネスモデル構築を急ぐ時期は先送りできない。放送法を盾にする総務省と著作権法を鉾にする文化庁には邪魔をするなと言いたい。監督官庁の邪魔で議論が遅々として進まないことも、関東の放送を全国に配信するとローカル局経営は大きく打撃をうけることもわからないではないが、コロナ不況は待ってはくれない。近い将来の放送からの撤退を視野に入れて考えるとおのずと答えは出てくるはずだ。うだうだ言うテレビ黄金期経験の経営者は早期に退出し、就職氷河期に競争を勝ち抜いて入社した世代の社員に道を譲れ。もう守りの姿勢では勝てない。勝ち残りたいなら民放はネット配信の共同化で勝負をかけろ。今度は待ったが効かない。立ち遅れは致命傷になる。

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