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デジタル市場競争会議に期待!ネット広告取引透明化
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デジタル市場競争会議に期待!ネット広告取引透明化
爺の雑言 – デジタル市場競争会議に期待!ネット広告取引透明化
インターネット広告費はテレビ広告費を超え(株式会社電通「2019年日本の広告費」)、日本の広告費の約3割を占めるまでになった。今や、インターネット広告は企業のマーケティング戦略上で最も重要なコミュニケーション手段のひとつになった。インターネットのユーザーは広告が利用画面に表示されることを許すことにより、サービスの多くを無料で使える利点を享受している。そしてGoogle、Facebookなどのプラットフォーマーにとっては広告が大きな収入源になった。成長著しいインターネット広告ではあるが、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌における広告に比べて、アドベリフィケーションの面においては大きな問題を抱える業種でもある。広告主からのアドベリフィケーションへの突き上げに加えて、政府規制当局の目も厳しくなりつつある。
問題解決への狼煙をあげた広告主
2020年度日本アドバタイザーズ協会デジタルメディア委員会(山口有希子委員長)の活動方針に、昨年度に引き続き①「取引の適正化・透明性」②「効果の可視化」の2つを掲げた。①の内容は、2019年11月に発表した「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」にそった継続活動を行うこと②はTVとデジタルの(流通商談用)共通指標の推進を行うこととしている(月刊JAA2020年5月号より)。
2018年5月にWFA(World Federation of Advertisers世界広告主連盟)の国際会議が東京で行われ「Global Media Charter」が発表された。これを基に日本アドバタイザーズ協会は「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」をまとめ以下のパートナーシップ8大原則を掲げた。
- アドフラウドへの断固たる対応
- 厳格なブランドセーフティの担保
- 高いビューアビリティの確保
- 第三者によるメディアの検証と測定の推奨
- サプライチェーンの透明化
- ウォールドガーデンへの対応
- データの透明性の向上
- ユーザーエクスペリエンスの向上
この宣言の中で、上記8原則を実現するために、出稿した広告の行き先への責任などの「アドバタイザーが持つべき倫理観」も表明した。
業界内でアドフラウドの問題が提起されたのは、2014年の5月フィナンシャル・タイムズ「(Rocket Fuelによって配信された)で、メルセデス・ベンツのオンライン広告は、人間よりも詐欺ボットに閲覧されている」と題したニュースを配信したことにある。そして広告主が大いに注意するきっかけとなったのが2017年の年初、YouTubeのIS(イスラム国)の動画に欧州をはじめ、日本も含めた大手ブランドの広告が流れたことであった。2017年1月末、P&GのCBO(チーフ・ブランド・オフィサー)Marc Pritchard氏やユニリーバのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)Keith Weed氏がアドベリフィケーションについての問題を提起し、急速に広告主側に拡がっていった。時を同じくして日本アドバタイザーズ協会も、「ブランドセーフティ」「ビューアビリティ」「アドフラウド」について注意を促し、「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」へと繋げていった。
2020年2月、日本アドバタイザーズ協会、日本広告業協会、日本インタラクティブ広告協会は日本アドバタイザーズ協会(JAA) が発表した「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」を契機として、「3団体がより具体的に協働して、デジタル広告の品質課題解決に向けた活動をさらに推進すること」と「デジタル広告の品質課題を解決すべく、監査・認証機関設立の検討や、各ステークホルダーへの注意喚起、情報の共有と開示による抑制など、具体的な対策を講じることで、健全な広告環境を創るために努力する」とした3団体協同宣言を出した。
今のところ広告主が主導で取りうる対策は以上の様に、業界宣言、業界教育、倫理観の育成、不正発見時の広告費・手数料返金などと限られ、撲滅への実効性にはほど遠い状況にある。
逐次対応のプラットフォーマー
YouTubeに動画投稿し、その動画に広告を表示して収益を得るためにYouTubeと動画投稿者の間に「YouTube パートナープログラム(YPP)」の契約がある。YouTubeは広告掲載に適したコンテンツのガイドライン」を2019年6月に更新した。炎上目的、他者を侮辱する投稿動画コンテンツに広告を掲載しないとする「迷惑ユーチューバー」対策だ。YouTubeにはこれまで通り誰でも動画投稿が可能だが、動画を表示して広告で収益を得るためのYouTubeと動画投稿者の契約であるYPPの条件が以前よりさらに厳格になった。「チャンネル登録者が1,000名以上」「12か月間の総再生時間が4,000時間以上」の条件を同時に満たしていないとYouTubeチャンネルからの広告収益化が不可能になる契約である。既に、YouTubeとパートナーシップを結んでいても、この新しい規定が適用されることになっている。プラットフォーマーの取るべき行動としては一歩前進だが、迷惑ユーチューバーを無くすには完全ではない。公序良俗に反する行為の動画を削除する責任がYouTubeにはあるのではないか?迷惑ユーチューバーはYouTubeで広告費を稼ぐことは無くなるだろうが、YouTube投稿で名を売り、自己Blogへ誘導し広告費を稼ぐ目的に悪用しているのだ。(話が少しそれるが、)最悪なのは、テレビがワイドショーで時間をかけてその悪行を報道し迷惑ユーチューバーの名を売る加担をしていることだ。名を売る目的の奴らの思う壺に嵌っているとしか言えない。
2020年5月26日、LINE、Twitter、FacebookなどのSNS運営事業者で構成するソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)は、誹謗中傷が原因で自殺を図ったとされるプロレ
スラー、木村花さんの事件を受け、SNS上での誹謗中傷について「禁止事項の明示と措置の徹底」「取組の透明性向上」「健全なソーシャルメディア利用に向けた啓発」の対策をあげ、「嫌がらせや侮辱を意図した投稿を利用規約で禁止し、加害者にならないための啓発活動を行うなどの被害を未然に防ぐための対応を強化する」との緊急声明を発表した。しかしながら、誹謗中傷は無くならず、TwitterではTwitterハッキングやMessengerでの知人を語った「乗っ取り」などが今も進行している。大手のプラットフォーマーは、広告主への広告出稿に関する規定を厳しく表示している。一方において、広告が広告主の出稿意図に反した記事上で表示されるリスク回避については十分な対策がなされているとは言えない。尚一層の対応が求められる。
腰が据わらない広告代理店
では、間に入る広告代理店の対策はというとお寒い状況である。これまでインターネット広告では、CPCやCPAなどの運用指標がプランニングの中心だった。ビューアビリティやアドフラウド率などのアドベリフィケーション関連の指標も、プランニングで加味すべき事項になったことで、悪質なサイトなどを配信先から除外指定する「ブラックリスト」と広告会社が決めた基準で配信先をランク分けした「ホワイトリスト」で対応している。電通は独自に「エージェンシー・ブラックリスト」と広告主毎に対応する「テーラード・ホワイトリスト」で問題と本質に向かい合うような姿勢を示しているものの他社と似たり寄ったりでリーダーシップを発揮しているとはいえない。一番の対策である第三者の公正な監査・認証機関設置に向けて検討するとはしているが、こういう時に必ず彼らが言う「私どもは代理店ですから」の逃げ口上で、具体的動きには腰が引けているとしか思えない。相変わらず、メディアの代理で、広告主の真の代理ではない姿をさらしている。
本気度が試される政府当局
2018年6月政府は「未来投資戦略2018」を閣議決定し、「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備」を掲げた。公正かつ自由で透明な競争環境の整備、規制緩和、デジタル・プラットフォーマーの社会的責任、利用者への公正性の確保などの基本原則を定め、これに沿った具体的措置を早急に進めるとした。
2018年12月には、経済産業省・公正取引委員会・総務省において基本原則(案)を策定した。「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」の概要は、「①デジタル・プラットフォーマーに関する法的評価の視点」「②プラットフォーム・ビジネスの適切な発展の促進」「③デジタル・プラットフォーマーに関する公正性確保のための透明性の実現」「④デジタル・プラットフォーマーに関する公正かつ自由な競争実現」「⑤データの移転・解放ルールの検討」「⑥バランスのとれた柔軟で実効的なルールの構築」「⑦国際的な法適用の在り方とハーモナイゼーション」の7つだ。その中でデジタル・プラットフォーマーに「本質的に操作性や技術的不透明性がある」「透明性及び公正性確保の観点からの規律の導入」「デジタル市場における公正かつ自由な競争を確保するための独占禁止法の運用」を示した。続いて、2019年1月からデジタル・プラットフォーマーの取引慣行に関する実態調査を開始。「透明性・公正性確保等に向けたワーキング・グループ」を新に設置した。
そして2020年6月16日、政府のデジタル市場競争会議(議長・菅義偉官房長官)がデジタル広告市場に関する中間報告をまとめた。その中で、①「公平性」「透明性」「(消費者や事業者等市場関係者の)選択の可能性」の3つを重要な要素としていくこと②イノベーションを過度に阻害せず、課題の解決を促す枠組みとすること③パーソナルデータの扱いに横断的視点を踏まえた対応とすること3つの基本方針に基づいて検討していく旨を示した。加えて、具体的な10の個別課題を列挙し、それぞれの対応の方向性も示した。例えば、「透明性に関する課題」としてアドフラウド等のインターネット広告市場の質に係る問題について、広告主・広告代理店・媒体社に対して、実態をよりわかりやすく情報開示し、実態をトレースできるようにすることを求める可能性に言及している。「手続き等の公平性に関する課題」については、プラットフォーム事業者によるシステム変更やルール変更は取引先事業者への事前通知や理由の開示を求めている。
急がれる第三者測定と監査の確立
日本の広告費のインターネット広告費(2兆1,048億円)から分析算出したインターネット広告媒体費は1兆6,630億円(対前年比114.8%)で、その広告種別構成比は検索連動型広告が40.2%で対前年比117.1%、ディスプレイ広告が33.3%で対前年比98.3%、ビデオ動画広告は19.1%で対前年比157.1%となっている。そして最も利用の多い検索連動型広告費の中で、50.0%がGoogle、続いて21.7%がYahoo、16.9%がFacebook、7.3%がTwitterとなっている。市場原理はわかるが、ここに政府当局はどう向かうかは興味のあるところではある。
広告主は政府当局による規制でインターネット広告の使い勝手と有効性、信頼性がどのように変わるのかの検証が必要となるだろう。どのようにインターネットへの規制・取り締まりを強化してもテレビ、ラジオ、新聞、雑誌のようなアドベリフィケーションは難しいように思える。放送におけるBPOのような公的自主規制組織も必要になるだろうが、はたして大手プラットフォーマーが率先して動くかは疑問である。広告主は自己防衛しなければならない。その為には少なくとも広告主はインターネット出稿の自社ガイドラインを持って広告することだ。例えば、当然だが「不必要な暴力、セックス、不敬表現のある場には出稿しない」「宗教、政治、民族、文化に対して差別的攻撃のある場には出稿しない」などである。また消費者が感じる「ターゲティング広告の鬱陶しさと追跡されているような気持ち悪さ」「データ使用活用への不安」といった声にも広告主は大いに気にするべきである。過度の規制強化を求めるものではないが、最低限のルール整備はインターネット広告発展に欠かせない。6月16日の日経新聞に「菅氏は16日の会議で広告効果に関するわかりやすい情報開示が必要と提言した。テレビの視聴率のように第三者が測定する仕組みも必要だと主張した」とある。爺も広告効果に関する情報開示と第三者測定に加えて「監査」が必要だと思うので、菅官房長官の発言を支持し、政府当局の最終報告を待ちたい。
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