NHKは必要か?

爺の雑言 – NHKは必要か?

放送と通信を語る時、NHK問題を抜きにしては語れない。NHKは広告無しの運営だから関係ないとおっしゃる向きもある。だがそうではない。強制的受信料徴収を行う中で、放送に加えてネットにも進出するとなれば、民業圧迫と言われても不思議ではない。

5月29日、国会で改正放送法によりNHK(日本放送協会)はネットと放送で同じコンテンツを常時同時配信することが認められ、すぐさまサービスを開始した。それまでは、特別な場合を除き、「ネット配信」と「テレビ放送」の分業の定めにより、放送内容をそのままNHKの受信料収入を原資としてネット配信することは認められていなかった。今回の放送法改正で、NHKに受信料を支払っている場合、ネットも受信料の範疇として視聴を可能にしたのである。一方、テレビを所持してない人(世帯)がネットでNHKの視聴する場合に、「テレビでの支払いが登録されておらず、自ら視聴する行為を行った場合」に、ネット上に(受信料の)支払いを促すメッセージを出す仕組みが肯定された。

NHKは8月4日、事業規模を3年間で630億円程度削減する「2021~2023年度の中期経営計画案」を発表した。その発表会見席上で前田晃伸会長は「スリムで強靭なNHKへと生まれ変わらせたい」と述べている。そして、10月1日より受信料が口座・クレジット払いの場合、地上波で35円値下げして1,225円、衛星で60円値下げして2,170円となった。しかし日本の世帯が個世帯化する中、NHK受信料支払い世帯が約60万世帯増加したことを考えると値下げ幅があまりにもみみっちいではないか。

受信料は高すぎる

NHKは、日本の「公共放送」を担う総務省の外郭団体である。「公共」という性質上、政府や民間企業の圧力に影響されないことが前提にあり、「受信料」を徴収することで運営される。もちろん、NHKの運営において税金は基本的に使われていない(国際放送については国から交付金(全体の約0.3%程度)が出ており、税金が一切使われていないというわけではない)。だからNHKは「公共放送」であって「国営放送」ではないということになっている。だが、「国営放送」ではないとしながら、NHKが受信料収入をどのように使うかについて、国会での承認は必要となっている。

放送法は、受信設備を設置したものはNHKと受信契約を結び、受信契約締結をしたらNHKに受信料支払いを行う義務があると定義している(放送法32条1項)。即ち、地上波ではNHKを受信可能な機器(あくまでも機器でテレビとは規定していない)をもった時点で、NHKを視聴する、しないに関わらずNHKとの受信契約締結を義務付けし、締結したら受信料支払いの義務が発生するということになる。テレビの普及率が100%に近いことを考えるとほぼ税金同様に全世帯から取り立てができるのだ(実際は不払い者が存在する)。また放送法第64条第3項では「契約の条項については、あらかじめ、総務大臣の認可を受けなければならない」となっている。つまり、受信料の金額は衆議院選挙によって選ばれた内閣の総務大臣が審査する事で、国民が納得し納める金額になっているはずであると解釈されて運用されているのだ。逆に言えば、それは契約者である国民の合意無しに総務大臣は受信料が変更できるという事でもある。このことからNHKが政府にひれ伏しているのも理解できる。

NHKの受信料は衛星契約と地上契約がある。地上契約は口座、クレジット引き落としの場合2ヶ月で2,450円、衛星契約は2ヶ月で4,340円である。ほぼ税金同様に徴収されるにしてはあまりに高すぎるように感じるのは爺だけではないだろう。選択視聴である民間有料放送WOWOW(地上波ではまだまだ放送されない最新映画や海外スポーツを見放題)の月額(3CH)2,300円とほぼ同じ金額で、スカパーのセレクト5(45チャンネルの中から好きな5つを選択)の月額1,980円より高い。またネット選択視聴のNetflixは画質によって800~1,800円が選べ、例えばHD画質でオリジナル作品、映画、海外ドラマ、アニメを2000作品以上、見放題では1,026円である。Huluはオリジナル作品、映画、海外ドラマ、アニメを3万作品以上、見放題で1,026円だ。Amazonプライム(ミュージック、本、ゲーム、配送などのサービスも同時に受けられる)は500円で動画見放題である。

民放キー局の動画配信の日テレはHulu(月額税込1,026円)、TBSとテレ東がParavi(月額税込1,016円)、フジTVはFOD(フジテレビオンデマンド月額税別888円)、TELASA(テレサ)」は月額562円(税別)だ。民間の選択視聴と比べて強制徴収のNHK料金は異常としかいえない。爺はNHKが公共放送を守る限り、「NHKから国民を守る党」が言うスクランブル方式の考え方には組みしない。「公共放送=強制徴収」であってもいいが、受信料金は月額500円程度で経営してもらいたいと思っている。

政治権力と公共放送の力関係

放送法7条は、NHKの目的について、「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行う」と規定している。また、番組の編集については、放送法44条1項で「豊かで、かつ、良い放送番組を放送し又は委託して放送させることによって公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与するように、最大の努力を払うこと」「全国向けの放送番組のほか、地方向けの放送番組を有するようにすること」「我が国の過去の優れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること」を要求している。これらの要求を満たすために、NHKが経済的に自立し、他からの干渉を受けないようにしているわけである。

NHKに放送免許を与えるのは総務省だ。一方公共放送の代表的存在のBBCに免許を出すのは国王で、10年に一度政府が特許状を作成し、国王が特許状をBBCに与える。だから、政治家が圧力をかけにくい構造になっている。例えば、米国がイラクに大量破壊兵器があるという理由で戦争に踏み切ったイラク戦争にブレア首相は全面支援を行ったが、実際には大量破壊兵器は存在しなかったということでBBCは率先して政権批判を行った。一方、NHKは同じくイラク戦争を支持・支援した小泉政権の批判は全くと言ってもいいくらいしなかった(権力を恐れてできなかったのかは定かではない)。

NHKは公平中立や不偏不党を謳い、政治的対立が起こるような問題からはなるべく距離を置くように見せかけている。だが、不偏不党や公平中立などは絵に描いた餅にすぎない。受け取る側によって当然であったり、そうではなかったりする。真に公平中立、不偏不党であろうとするならば、例えば、国会中継を朝から晩まで流し、NHK政治記者の余計な解説は抜きに国民自身の判断にまかせるようにするしかないだろう。

本来、受信料制度は政治権力からの圧力を排除するための仕組みなのだが、国民一人一人を代表しているとする国会や政権がNHKをチェックする。このことから実態は政府や総務省の圧力が存在する。例をあげると、2018年4月NHKは「クローズアップ現代+」で、かんぽ生命保険の不適切な営業実態を取り上げた。しかし元総務次官だった日本郵政の鈴木康雄副社長(当時)がNHKに圧力をかけた。そしてNHK経営委員会が番組の編集に関与できない(放送法第32条の規定)にもかかわらず石原進NHK経営委員長(JR九州相談役)が当時のNHK上田会長に事実上の謝罪文書を日本郵政側に送らせた事件があった。このように放送行政を所管する総務省にNHKは頭が上がらないのだ。NHKは毎年の予算を通してもらうために国会に株主対策と同様のことをやるようになっている。強制徴収だけが問題ではなく、政治権力から解放しなければ公共のためのNHKは存在しない。

視聴率争い番組から撤退しろ

そもそも放送法が想定するNHKの受信料制度は、白黒テレビがスタートした1953年のアナログ放送で、放送局もNHKと日本テレビだけの時代が前提である。その時代はテレビを持っている家庭はNHKを観ているという公式が成り立った。しかし、今は民放の数は多く、地上デジタル放送がスタートし、様々な衛星放送、ケーブルテレビ、ネット配信サービスが群雄割拠している。テレビを持っている世帯(人)は必ずNHKを観ているという公式は成り立たない。テレビを持っていてもNHKを観た事も無いという人、見なくても問題ない人は大勢いるのだ。

爺はNHKが公共放送を守る限りにおいて、額は別として受信料制度を否定はしない。だからドラマ、バラエティ、歌番組、人気スポーツなどの娯楽番組は競争激化の民放および有料衛星放送、ケーブルテレビ、ネット配信サービスに任せ、視聴率争いから離れた教育、災害情報、地方課題、国会・地方議会生中継、解説なしのニュース番組、民放が扱わない人気が高くないスポーツなど真の公共放送に集中して欲しいと考える。欲張った要求になるが、オリンピックやWカップなど国民の要望が高いイベントは、放送権料が高いので民放との折半にして、民放との高額入札争い加速を抑える努力も願いたい。

昔の話になるが、国民の多くが視聴した紅白歌合戦は、歌手の出演料は安いが、出場する歌手にとっては名誉の時代があった。それは国民的行事として意味があり価値もあった。しかし今は年末のバカ騒ぎ歌番組に成り下がってしまった。歌の嗜好の多様化で、一同に会した歌合戦を男女に分かれて行うなどはもはや時代遅れになってしまっている。「公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与」などには繋がっていない。公共放送であるならば、地方向けの放送番組、文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及といった番組にその力を注いでほしい。

NHKよ、勘違いするのにも程がある

あまり人様の所得について話をしたくはないが、NHK職員の平均年収は民放社員の平均年収以上と言われている、実際そうである。給与が高いのはいいことだが、その原資が受信料からである限り、受信料を支払う我々が文句をいっても構わないのだ。コロナ禍で民放は収入に応じて制作費、給与の削減を行っている。我々はNHKが民放よりも制作費に金をかけることにも、そして「親方日の丸」的経営にも声をあげる必要がある。

菅政権が誕生し、鶴の一声で携帯料金の値下げに動こうとしているが、政権が私企業(たとえ国民の電波を使っていても)の経営戦略に口出しするのはおかしいことである。私企業の利益率が高いからと値下げを政権が求めるのはあってはならない。企業は利益を上げ、積極的に税金を納めて国民に貢献するようにするのが自由主義経済を守る政権の仕事である。しかも大手3社以外で契約すれば安い料金で携帯の利用はできる「選択の自由」もある。政府がすることは企業がGAFAなど世界企業に負けないように応援するのが先ではないかと思う。勿論、政府が大株主であるNTTには株主として経営改革を求めることはできる。それによって値下げになれば、競争は激化し他企業も追随し市場価格が下がるのは資本主義の原理でもある。もしも大手3社の価格談合などで料金が不当に高いのであれば、公正取引委員会が乗り出せばいいだけの話であって、政権が人気取りでやることではないだろう。

携帯料金は国民が選択できる権利が存在するが、NHK受信料払いは「選択権のない義務」になっている。それこそ人気取りでやりたいなら、私企業ではない総務省の外郭団体であるNHKの受信料(公共料金)を下げると言ってくれたほうが、よほどスッキリし納得がいく。

NHKは10月16日に「家庭や事業所でテレビを設置した場合にNHKへの届け出を義務化する」制度改正を総務省の受信料制度などの在り方を検討する有識者会議に要望した。受信契約を結んでいない世帯の氏名、転居先などの個人情報を公的機関などに照会できるようにすることも求めているのだ。勘違いするにも程がある。受信契約徴取率向上と徴収営業経費削減が目的だが、自らの体質改善なくして徴取を優先するNHKの無能としか言えない経営陣には猛省を促したい。NHKは国営放送ではないから政権から放送の内容にあまり口出しをしてほしくないが、公共料金への口出しは当然あっていい。

ネットで見るNHKプラスのアプリをスマホに入れてみた。受信料を払っている者にとっても登録は複雑である。何故なら、受信料不払い者から受信料を取るための手続きが優先しているからだ。しかも受信料を払っている人にはハガキで確認コードを送ってくる(約1週間後)。こんなところにもムダ金を使っている。技術的にネット上で完結できるのをわざわざ手作業を加えて経費をかけているのだ。しかもNHKプラスの画面は見る側の便利なようにはなってない。本当に使いづらい画面構成になっている。見てもらう発想ではなく、見せてやるからの発想から作られているのにはガッカリだ。

NHKには公共番組とは何かを今一度見直して、視聴率争いから離れた番組に徹して欲しい。加えて今の受信料で何をするかではなく、例えば月額500円あるいは1,000円とした場合、公共放送NHKは何ができるのかを示して欲しいものだ。公共放送を語るなら、国民の為に、ぜひ受信料の低額化に向けて経営のスリム化と経費削減を自主的に行うのが先だと思うのは爺だけだろうか。

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