トータル(放送+ネット)テレビ広告ビジネスの新時代

爺の雑言 – トータル(放送+ネット)テレビ広告ビジネスの新時代

民放連が2月3日に出した「地上民放テレビ売上高の現状について」によると、20年度の営業収入は前年比マイナス1.1%(東阪名マイナス0.8%)、テレビスポットは前年比マイナス2.2%(東阪名マイナス2.3%)を予測していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、その予測は狂い始めた。7月29日の日経広告研究所は「20年度を見直し」の中で、「20年度のテレビ広告は14.8%減が見込まれる」としている。「オリンピック・パラリンピックの延期で、タイム広告の増加は期待しにくく、告知のスポット広告も13.7%減少の見通し」と記している。落ち目のところに、コロナ禍の嵐がテレビ広告に吹き荒れる。

テレビにとってコロナは悪いニュースばかりをもたらしたわけではない。ビデオリサーチによると、2月下旬からテレビの総世帯視聴率が上昇し、前年を上回るようになった。関東では4月が前年比119.25に5月は114.3と上昇した。特にニュース、情報番組の視聴率の伸びが目を引いた。テレビ離れと言われる若者世代のF1、M1も信頼できる情報やコンテンツを見たという結果が示されていた。

メディアニュートラルという考えが広がる中で、テレビはメディア選定のワン・オブ・ゼムになっていった。そして遂に、メディア広告費でインターネットに後塵を拝すことになった。長い間広告媒体の王者だったテレビはあまりにも怠惰であった。自身の広告価値アピールと証明を怠ってきたのだ。広告主が求めてきた個人視聴率についても後ろ向きで世帯視聴率にしがみついてきた。勿論、王者が自己優位の尺度で戦うのは市場原理だ。王座陥落した今、テレビの優位性を今まで以上にアピールしなければ新王者との差は開いていくだろう。

「テレビCMの優位性は何だ」を語る時

「テレビCMの優位性は何だ?」をテレビ人は大いに語っていく必要がある。それは広告との相性と圧倒的到達力そして信頼度だ。インターネットはユーザーが目的を持ってクリックする「能動的」媒体の代表だ。利用者が何かを検索中に関連した検索として広告が出てくるが、それをクリックする人は少ない。それでも強制的に出る広告画像があるが、それが鬱陶しく邪魔なものに利用者は感じる。広告への理解不足に加え広告慣れしていないのだ。それに比べてテレビのCMは視聴者にその存在が当たり前で、視聴者は広告慣れしている。彼らの態度は視聴している限り受身であり、テレビは広告を強制的に見せることができる媒体である。広告としての相性は、広告をする目的でも違うが、圧倒的多数へのメッセージ伝達に関してはテレビのほうが良い。しかもテレビは他媒体に比べて圧倒的リーチ(到達力)を持っている。雑な計算であるが、全国で世帯視聴率1,000GRPのテレビCMを打つと、(GRP=リーチXフリークエンシーの関係から)全世帯の100%(約5,800万)が10回CMを見るとすれば約5.8億回露出されたことになる。インターネットで5.8億回の露出をすると、1回1円の単価としても5.8億円が必要になる。テレビではこんなに払わなくても露出可能である。(テレビスポット1%GRPコストが企業によっても、出稿パターンによっても違うので)一概には言えないが、半分以下の費用で十分可能である。テレビは圧倒的に安い費用で到達力を持った媒体なのだ。

広告費全体ではインターネットに首位の座を譲ったテレビだが、テレビ広告を行うにはある程度の広告予算を持っている必要があり、インターネットに比べて一定の名が通った企業が広告を行っている。減少傾向にあるとは言え大手企業のテレビ広告比率は依然として高い。

インターネット広告とテレビ広告の利用者イメージでは圧倒的にインターネット広告に不快感、鬱陶しさ、怪しさを抱くユーザーが多い。信頼度ではテレビ広告が上なのだ。時にはテレビCMでしばらく見ない商品などは「売れなくなったから広告できないのね」などと見られてしまうこともある。

能動的であるとされるインターネット広告だが、実はユーザーが選び検索した中に関連表示されることでは受動的媒体でもある。これがある意味インターネット広告のネガティブ感を増長する。広告主の多くが若者のテレビ離れを理由にスマホを中心としたインターネット広告を行うことも多いが、本当に彼らがその広告を見ているのかは疑問でもある。海外では大手のP&Gのようにインターネット広告に課題を感じ、信頼度が高く、伝達力のあるテレビ広告に回帰するケースも出ている。

民放連研究所は8月4日、電通とビデオリサーチの協力で実施した「テレビの広告効果に関する研究」の中で、テレビ広告が企業のブランディングに貢献するだけでなく、興味関心や欲求の喚起といった心理変容にも効果を発揮し、消費者にポジティブな影響を与えている点をインターネットとの比較で客観的に示した。またその中で、若年層はネットのヘビーユーザーでもネット広告への信頼度の低さとともに、ネットでしか見たことがない商品の購入には不安を感じているなど、ポジティブイメージに欠けるとした結果を発表した。このように数字・データを使ってテレビの優位性を伝える努力は継続して行うべきだ。

テレビという「箱」で見る人は世代が若くなるほど減少しているのは事実だが、テレビコンテンツはスマホ、PC、タブレットと「箱」の数を増やして、いつでもどこでもお好みで見る時代に突入した。「箱」の違いでインターネットとテレビで分ける広告費に意味があるのかをここで議論する気はない。スマホ、PC、タブレットで見られるテレビコンテンツに流れるCMはテレビという受像機でみるCMと同じく「受動的」で「信頼」されるはずだ。「箱」の数を増やしたトータルテレビ(放送+ネット)はその優位性を説くことで再び他メディアを圧倒することは可能になるのだろう。

変わったテレビ視聴率調査から見えるもの

長くテレビ広告の取引通貨であった「世帯視聴率」は2018年4月から導入された「スポットCMの新取引指標(P+C7)」に変わった。「P+C7」とは、Pは番組(Program)で、CはCM(Commercial)を指す。番組のリアルタイム視聴率に、CMのタイムシフト視聴率を放送後7日間加えますということだ。タイムシフト視聴ではドラマと一部のバラエティ以外はそれほど大した数字として表れていないようだが、テレビ局にとってそれによる視聴を加算できるのは大きい。これまでテレビ局にとって良い番組が録画で見られていたかもしれないのに、ビジネスにならなかった。それが商売になるわけだ。

世帯視聴率と個人全体視聴率の違いを簡単に説明すると、ある地区に10世帯の家族があり、その中で4世帯が同じ番組を見ていたら世帯視聴率は40%となる。一方、10世帯には合わせて25人が住んでいて5人が同じ番組を見ていたら個人全体視聴は20%となる。世帯より個人のほうが数字は低く出る。タイムシフトを商売に加えたかった広告業協会とテレビ局は、広告主を説得するにあたりリアルタイム世帯視聴率500GRPが個人全体リアルタイム250GRP相当になるので、タイムシフト個人全体5GRP(世帯10GRP相当)を加えることで、個人全体視聴率が255GRP(世帯510GRP)とお得感を見せたのだ。考えてもわかることだが同じ広告金額で世帯視聴率と個人全体視聴率の%コストは基準が違うのだから違って当たり前なのだから、広告主はリアルタイムだけを指標として価格の高低を見てもよかったのだ。タイムシフトは広告主におまけのように見せて実はリアルの視聴率低下のカムフラージュとして使われたようにも見える。コストアップに見えそうなので、そうならないように今まで無価値扱いされていたタイムシフトを売り物として加えた“調整案”を出したのだ。

新取引指標を購買指標がどう変わろうとテレビスポット取引はあくまでも予測値購買であることから広告主は、その結果確認をする必要がある。アクチャルを検証しているという広告主でも枠平均で検証しているところが多い。それでは不十分で広告時点での検証が必要なのだ。

ビデオリサーチ視聴率調査は2020年4月から大きく変わった。全地区で世帯・個人・タイムシフトが毎日調査され、サンプル数も関東は900から2,700の3倍、関西は600から1,200と倍増、名古屋(600)と福岡(400)は変わらないが、札幌は200から400へ倍増した。これにより広告主はターゲットとする個人視聴率の投下検証を向上させることができる。CPMもターゲット別により正確に算出可能となった。しっかりと結果検証を行うことは必要となる。日本の広告主の多くはプランニングと購買段階までに時間をかける傾向が強い。PDCAのP(Plan)とD(Do)が中心で、せいぜい結果がどうだったかのC(Check)レベルで宣伝部の仕事を終わりにしている。あくまでも仮定の視聴率で購入しているのだから、結果を分析し、改善点は無いのかのA(Analysis)を忘れてはいけない。結果を確認し、次の購買に繋げるのは広告主宣伝部や購買部そして広告会社の責務である。分析・改善することで、次の購買精度は高められる。ますますテレビ広告検証を行うコンサルティング会社の必要性は増してくる。この原稿を載せているから誉めるわけではないが、Truestar Consulting Group 株式会社はこの成果確認と改善のサービスに優れた知見と実績を持ったコンサルティング会社のトップランナである。広告主の成果向上に大いなる貢献を発揮することは間違いない。

個人視聴率が出ることで、個人GRPをベースに表示回数を出し、ネットのインプレッションと比較可能な数値にすることも可能になる。表示回数はGRPの各地区母数コンバインと違って絶対値なので、投下地区を足し上げることもできる。日本アドバタイザーズ協会のデジタルメディア委員会の活動方針のひとつである「テレビとネットの共通指標」にも結び付く。

「広告は投資だ」と考えると、CMを見て購買が増える証明が必要だ。購買データと視聴データを紐付けする必要がある。最近はデータ会社が購買データと視聴データを結びつけるサービスを始めている。以前から保険会社や通販会社は「視聴」と「購買」を結びつけてCM枠選定を行っていた。通販会社がテレビを今も多く活用するのは以前に比べてCM価格が安くなっただけでなく、販売効果もあるからだろう。

テレビスポットの売り方も大きく変わるか?

2018年2月、日本テレビは通常のスポット販売であるパッケージ販売に加えてオンエアー5営業日前まで「スポットCM枠を日付や枠指定可能で15秒1本単位でも購入可能にしたサービスSAS(Smart Ad Sales)」を導入した。SASで販売するすべてのスポットCM枠にそれぞれの値段がついていて、欲しいところを日付指定、ポジション指定で15秒1本からオンライン上で選んで買える。値段は日本テレビが付けているので、市場原理が必ずしも100%反映されているとは言えないが、マーケティングデータと結び付けたCM購買に向けて広告主の知恵が試される環境になりつつある。

欲を言えば、株式売買のようにPC上で欲しい局のCM枠を広告主が公開競争入札し、希望の多い枠は高値で、希望の少ない枠は安値で売買される方式をとればCM枠の売り買いがダイナミックに活性化するはずだ。今のGRPパターン販売方式では「ドクターX」や「半沢直樹」の人気ドラマなど欲しい枠が絵柄上に線引きがあるかないかで揉めることがあるが、公開入札(後からでも高値を出した方が買える)方式を取れば、人気物件は高値で、そうでないものはそれなりに売れば良いことになる。これが実現すれば、過去の遺物でもある大スポンサー(今も大出稿スポンサーとは限らない)の価格と新規スポンサーのスポット価格差を平等化することも可能となる。ギリギリまで入札締め切りを伸ばすにはCM素材納品締め日も短縮化する必要が出てくるが、その分、直近まで視聴率の考察ができ(そうなると、宣伝部も広告代理店、テレビ局営業も気を休める暇もなくなるだろうが、)テレビCMの使い勝手は改善される。加えて、テレビ局が支払う広告会社への手数料も例えば早期購入落札には高く、締め切り直前での低額物件には低くなるなど変動制にしたらおもしろい展開が期待できるかもしれない。テレビ局にはなりふり構わない企画行動が求められる。

若者向けコンテンツは必要

インターネットは消費者が不快に感じるような情報取得、個人情報の取り扱いに問題をかかえている。公正取引委員会はターゲティング広告に対するCookieや位置情報使用を多用するプラットフォーマーに制限をかけようとしている。テレビ局はテレビという「箱」に加えてネットという「箱」も持つことになった。しかもテレビ局はネット上でも公共性の観点からプラットフォーマーに比べてモデスト(謙虚)な運用をするはずだ。トータル(テレビ+ネット)テレビ広告ビジネスに新時代が開けるチャンスがある。

若い人をターゲットとした広告を取るには、今の番組編成では若者層は取り戻せないとの声を聞くが、では何故、ネットで若者は番組コンテンツを見ているのだろか。若者はネット利用が多いからネットの中で番組コンテンツを見てもらえば良いという考えは危険かもしれないが、彼らは現在ある範囲で自分好みのコンテンツを選んで見ているのだ。放送での若者視聴率が低くてもタイムシフトで見られている番組はある。現在、テレビ局にとって放送収入が圧倒的に高いのだから、放送視聴者数の多いF2、F3層が多く接する時間帯には彼女ら向けのコンテンツを流すのは当然のこととなる。ただこの層はテレビに多く接するのだが、40から60歳代を含めても気持ちは若く、ジャニーズ系も大好きで、若者向けのコンテンツにも寛容である。極端なジャリ向けでない限り許容度も高い。何もすべて若者向けに振る必要はないが、ネットでも商売になるドラマやバラエティはF1,M1,F2,M2をターゲットにしても良いと思う。

若者がスマホ、PC、タブレットで見るにしてもコンテンツは選ばれる時代だ。ネットにおいても広告が取れる若者に向き合った番組コンテンツ開発は必要である。テレビという「箱」が若者にとってAMAZONプライムやNetflixそしてYouTubeを見る「箱」に代わってしまわないように、放送で稼ぎ、ネット(有料、無料)で稼ぐ長期に使えるコンテンツ(ドラマの充実)がテレビ局には求められる。

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