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サービスドミナントロジックで「価値」の本質を再考する

サービスドミナントロジックで「価値」の本質を再考する

投稿日:2020年11月10日/更新日:2021年6月22日

サービスドミナントロジック

 製品のコモディティ化に伴って、モノの機能やデザインによる差別化は通用しにくくなっています。そんな中、サービスを差別化の軸に据えた戦略が注目されています。

今回は、そうした戦略を立てる上で前提となる思考法、「サービスドミナントロジック」について解説します。Vargoらによるこの概念は、製品とサービスを統合的に捉えるべきといった主張であり、サービスマーケティング界隈にパラダイムシフトをもたらしました。

「製品とサービスを統合して考える」とは具体的にどういうことでしょうか、またそこから見えてくる顧客価値の本質とはなんでしょうか。

 

1.サービスの特性

前提として、サービスと製品を分かつ要素を整理しましょう。

サービスとは、販売目的で提供される活動、便益などのうち、本質的に無形で、所有されることのない製品の一形態を意味します。

また一般に、①無形性、②不可分性、③変動性、④消滅性の4つがサービスのもつ特性であり、それがずばり製品との違いであると考えられています。

すなわち、サービスは実体をもたず(無形性)、提供者と切り離せません(不可分性)。また有形財のように品質を一定に保つことも難しく(変動性)、在庫をストックすることも出来ないのです(消滅性)。

 

よって、従業員がサービスを提供するまさしくその瞬間のみが消費者にとっての評価対象であり、これは真実の瞬間と言われます。

 

このように従来は、サービスと製品を明確に区別して捉え、それぞれに最適なアプローチを模索・展開することがセオリーとなっていました。

しかし、今日では「製造業のサービス化」が進展しつつあり、有形の製品と無形のサービスをあえて別々に捉える必要性が薄れてきています。

 

 

2.製造業のサービス化

 

製造業のサービス化とは、製造業がこれまで売りにしていた有形材に対して、サービスの要素を付加するビジネス戦略です。モノからコトへ、より質の高い無形の「コト」=サービスを提供し、顧客ロイヤルティの獲得を目指します。

例えば、フィルターの掃除を自動で行ってくれるエアコンなどもそのうちの1つです。

SHARPや東芝の最新型エアコンは、クリーニングサービスの機能を製品に実装(内部化)して、顧客の掃除にかかる手間を省いています。

このように、モノ製品において従来は外部化されていたサービスを製品に内蔵して、これまで満たされなかった顧客ニーズを満たしていくのもまた、製造業のサービス化と言えます。

 

では、どういった商品や部門でこのようなサービスへの転換が起きやすいのでしょうか。

以下の3つのマッチングを考慮することによって、サービス機能の付加に意味があるのか、またビジネス的に有効か、ある程度判断できます。

*製造業のサービス化が顧客価値を生み出す3条件

製品機能顧客ニーズとのマッチング

クリーニング機能付きのエアコンのように、顧客が抱えているニーズ(エアコンのクリーニング)を、製品機能(エアコン機能)とマッチさせることができるか否かです。

製品の使用できる状態と顧客のマッチング

製品が作られてから顧客に届くまでの流れがスムーズにデザインできるか否かです。

顧客との接点をデザインするチャネル設計は、極めて重要な考慮事項と言えます。例えば、4Kテレビを販売する際、注文から配送、設置、セットアップ、下取りまでの一連の流れを滞りなくデザインする必要があります。

③製品の使用方法と顧客の使用能力のマッチング

その製品を使いこなすだけの専門知識が顧客に備わっているか否かです。

多機能リモコンが案外ウケなかったというのは有名な話で、あまりに複雑性の高い製品は面倒がられて売れないのです。

ただこうしたとき、知識のギャップを埋めるサービスを提供できれば話は変わります。例えば、専門性の高いパソコンをヒットさせたいのであれば、まず顧客の使用能力を育てるサービスを考えましょう。

具体的には、パソコン教室を開く、オンデマンド講義を公開する、電話による案内サービスやチャットボットを整備する、などが考えられます。

 

 

3.サービス化に伴う課題

製造業のサービス化に付随して、メーカーが直面する課題は様々存在しますが、大別すると以下の3つに整理されます。

 

 

1.顧客の教育

・モノの価値を伝達するためのサービス

特に製品自体が複雑な場合や、製品のベネフィットが購買前に判断しにくい場合には、サービスを通して製品の価値を理解してもらう必要があります。顧客からのより良い理解を得るために、メーカーは伝え方を工夫しなくてはなりません。

2.メンテナンス技術者の養成

・技術者を育て、アフターケアを充実させる

丁寧なアフターケアでロイヤルティを獲得しつつ、小刻みに収益を上げていくビジネスモデルも存在します。

3.顧客との長期的リレーションシップ形成

・CRM戦略との連携

購買後も積極的なコミュニケーションで働きかけ、良好な関係性を築く必要性があります。成熟市場で新規顧客を開拓するのは極めてハードルが高いうえに、大幅なコストもかかります。既存顧客を大切にするのが賢明です。

要は、これまでサービス業界が直面してきた課題がそのまま製造業にも降りかかることになるというわけです。

 

 

 

4.サービスドミナントロジック

サービス業界での課題がそのまま製造業の課題とも言えるのであれば、それらを分けて論じる意味はどこにあるのでしょうか?

繰り返しますが、モノとサービスを二極化しつつサービスの在り方を強調してきたのが従来のサービスマーケティングです。

 

Vargoらによるサービスドミナントロジック(Service-Dominant Logic)の概念は、そうした従来のサービスマーケティングに疑問を投げかけ、まさしくパラダイムシフトをもたらしました。

彼らは、モノとサービスの在り方をあえて分割して捉えるのはナンセンスであると主張したのです。

 

モノとサービスを分けるのではなく、両者に備わる価値を統合して理解し、相乗効果的にベネフィットを高めていく、そうした考えがサービスドミナントロジックです。

あらゆる商品がコモディティ化してしまった現代において、ひたすらにモノを進化させることはもはや非効率とさえ言えます。

むしろ、モノとサービスを上手く組み合わせた提供プロセスこそが真に求められているのであって、メーカーはそれを早々に理解すべき、というのがVargoらの指摘です。

 

注意していただきたいのは、サービスドミナントロジックがただ単に第三次産業への経済的シフトを主張しているわけではないということです。

 

経済活動そのものがサービス化している点へ目を向けてみましょう。

 

かつては、交換価値の最大化が経営のゴールでした。

企業は価値あるモノをつくり、顧客である消費者はそれに価値を感じればお金を払う。売買が成立すればそれで終わり、といった考えです。

 

そういった思考の下では、造る人(企業)と使う人(消費者)が完全に分離しています。

メーカーは製品をいかに安く造り高く買ってもらうのかを至上命題として行動し、逆に消費者はいかに良いモノを安く手に入れるか考えて行動するわけです。

 

一方で、サービスドミナントロジックの考えに基づく経営のゴールは使用価値の最大化です。

顧客が製品を実際に使用するプロセスにおいて、企業の働きかけや顧客自身の行動が価値を豊かにするという発想です。

売買取引によって交換価値が決定した「その先の価値」を見据えているのです。

サービスドミナントロジックによれば、モノとサービスは深い部分で融合しており、モノはサービスを生み出すためのある種のツールであると考えられます。

 

こうした思考の下では、顧客と企業が価値を共創し、その後の使用価値をどうすれば最大化できるかといった点に意識が向いています。

企業と顧客の至上命題は使用価値の最大化という点で一致し、いかに協力しあうかがマーケティングの焦点となります。

このように、サービスドミナントロジックは「価値とは何か」というシンプルで根源的な問いの答えに変革をもたらしました。

 

顧客価値の本質を追求し、経営ゴールを「交換価値」から「使用価値」へ転換することが、これからのサービスマーケティングで欠かせない思考法となるのです。

 

 

5.まとめ

21世紀は「モノからコトへ」の転換期です。有形の製品よりも無形の何か、情報やシステムなどを提供するサービスが大きな付加価値を持つようになってきています。

また近年ではサービス産業が国内総生産の8割を占めるなど、経済のサービス化も進行しています。

これらの潮流を踏まえれば、サービスマーケティングの重要性が日増しに高まっていくのは必然です。ぜひ早急にサービスドミナントロジックの思考法から顧客価値を考えてみてください。

 

「モノからコトへ」に関連する記事はこちら☞これからのビジネスは「コト」をデザインする

 

【参考資料】

・Vargo, Stephen L. and Robert F. Lusch ”Evolving to a New Dominant Logic for Marketing.” Journal of Marketing, Vol.68(2004).

・近藤隆雄(2010)「サービス・マーケティング——サービス商品の開発と顧客価値の創造(第二版)」生産性出版。

 

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